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材料開発DXにおける「機械学習アルゴリズム」の分類と選び方【数値予測編】

December 09, 2025
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材料開発DXの現場で混同されがちな「予測モデル」と「探索アルゴリズム」の違いを定義し、実務で必須となる4つの主要モデルの特徴を解説します。 プロのデータサイエンティストが実践する「目的別の使い分け基準」を提示し、データの特性に応じた最適なアルゴリズム選定を支援します。 研究開発を加速させるための、データ駆動型アプローチの実践的ガイドです。

AI駆動型の材料開発(材料開発DX)を推進していく上で、アルゴリズムの活用は避けて通れません。しかし、一口にアルゴリズムと言っても、MI(マテリアルズ・インフォマティクス)の現場で使われるものには、大きく分けて2つの種類が存在することをご存知でしょうか。
 
一つは、実験データから法則性を学ぶ機械学習アルゴリズム(予測モデル)。 もう一つは、そのモデルを使って最適な実験条件を探す探索アルゴリズム(最適化手法)です。
 
これらはどちらもアルゴリズムと呼ばれますが、その役割は明確に異なります。ここを混同してしまうと、「どの手法を使えばいいのか?」「ランダムフォレストとベイズ最適化はどう違うのか?」といった混乱が生じやすくなります。
 
今回は、まず土台となる機械学習アルゴリズム(予測モデル)に焦点を当て、現場のデータサイエンティストがそれぞれのモデルをどう捉え、どのような基準で比較・選定しているのか、その特徴とロジックを解説します。

1. データ駆動型開発における予測モデルの役割

まず、改めて言葉を整理します。先ほど触れたように、データ駆動型の材料開発では、主に2つのアルゴリズムが使われます。
  1. 機械学習アルゴリズム(予測モデル)
      • 条件から結果を予測する順解析のための手法。
      • 役割: 実験データの法則性を学習し、未知の条件を入力すると「物性値」を予測する計算式(エンジン)。
      • 代表例: ランダムフォレスト、Lasso回帰、ガウス過程回帰など。
  1. 探索アルゴリズム(最適化手法)
      • 結果から条件を探索する逆解析のための手法。
      • 役割: 「もっと強い材料を作るには?」といった問いに対し、予測モデル(エンジン)を使って何千回も試行錯誤し、最適な条件を探し出すナビゲーター。
      • 代表例: ベイズ最適化、遺伝的アルゴリズムなど。
      • 補足: 従来の統計的な実験計画法(DoE)に代わり、AIが逐次的に条件を提案するアプローチとして活用されます。
今回のテーマは、このうちの1. 予測モデルです。
ベイズ最適化などの探索ツールを使っていると意識しにくい部分ですが、実はその裏側では必ずこの予測モデルが動いています。
予測モデルは、いわばコンピュータの中に作られたバーチャルな実験装置です。 どんなに優れた探索アルゴリズム(最適化手法)を使っていても、その計算の拠り所となるこの装置(予測モデル)の精度が低ければ、決して最適な条件には辿り着けません。だからこそ、探索を成功させるためにも、まずこの予測モデルの特性を知っておくことが不可欠なのです。

2. 予測対象の定義:回帰問題か、分類問題か?

具体的なアルゴリズムを見る前に、まず決めるべきは何を予測したいかです。
  • ① 回帰問題 (Regression)
    • 目的: 数値を予測する。
    • 例: 引張強度、熱伝導率、収率、バンドギャップなど。
    • 活用シーン: 最も一般的です。「より高い数値を出す」ことが目的の場合はこちらです。
  • ② 分類問題 (Classification)
    • 目的: カテゴリ(ラベル)を判定する。
    • 例: 合成の成功/失敗、結晶構造(A型/B型)、毒性のあり/なし。
    • 活用シーン: スクリーニング段階で「そもそも実験可能か?」を判定する際などに使われます。
今回は、材料開発の現場で最も需要が高い① 回帰問題(数値予測)に焦点を当てて解説します。
なお、ランダムフォレストやサポートベクターマシンなど、多くのアルゴリズムは回帰分類の両方に対応可能です。本記事では「回帰(数値予測)として使う場合」の特徴を紹介します。分類問題におけるアルゴリズムの選び方については、今後の記事で改めて解説予定です。

3. 実務で使われる「4つの主要モデル」

「AIといえばディープラーニング(ニューラルネットワーク)」をイメージされる方も多いかもしれません。しかし、材料開発の現場(データ数が数十〜数千件程度)では、大量のデータを必要とするディープラーニングよりも、少ないデータでも精度が出やすい以下の4グループが主力として使い分けられています。

① 線形モデル (Linear Models)

データの傾向を直線(または平面)で捉えようとする手法です。
  • 代表的手法: 線形回帰、Lasso、Ridge、PLS
  • 特徴: 「添加剤Aを増やせば、強度も比例して上がる」といったシンプルな関係性に強い。
  • メリット: モデルの中身が数式 (y = ax + b) として見えるため、なぜその予測になったかが人間にとって非常に理解しやすい点です。「まずはこれでベースライン(基準)を作る」のがデータ解析のセオリーです。

② 決定木モデル (Tree-based Models)

「もし温度が◯◯℃以上なら右、それ以下なら左」という条件分岐を無数に組み合わせて予測する手法です。
  • 代表的手法: Random Forest、XGBoost、LightGBM、CatBoost
  • 特徴: 線形モデルでは捉えきれない「複雑な相互作用(AとBが両方あるときだけ強くなる、など)」を高精度に学習できます。
  • メリット: 現在のMI実務での第一選択肢(デファクトスタンダード)です。SHAP解析などの技術と組み合わせることで、「どの因子が効いているか」を可視化でき、精度と解釈性のバランスが最も優れています。

③ カーネル・確率モデル (Kernel & Probabilistic Models)

カーネル法として、データを高次元空間に写像し、データの「類似度(距離)」に基づいて予測します。
  • 代表的手法: ガウス過程回帰 (GPR)、サポートベクター回帰 (SVR)、カーネルリッジ回帰 (KRR)、関連ベクトルマシン (RVM)
  • 特徴: 「似ている化学構造を持つ材料は、似たような物性を示すはずだ」という、化学者の直感に近いアプローチです。
  • メリット: 少ないデータでも複雑な非線形性を捉えられる点が共通の強みです。用途に応じて使い分けられます。
    • SVRやKRR: 外れ値の影響を抑えたり、計算コストを制御することに長けており、安定した予測モデルの構築に向いています。
    • GPRやRVM: 予測値だけでなく不確実性(自信のなさ)も算出できるため、未知領域の探索(ベイズ最適化など)を行う場合に特に適しています。

④ アンサンブルモデル (Ensemble Models)

単一のモデルではなく、複数の異なるモデル(例:LassoとXGBoost)の予測結果を統合する「合議制」の手法です。 (広義にはRandom Forest等も決定木のアンサンブルですが、ここでは「異なる種類のモデルを組み合わせる手法」を指します)
  • 代表的手法: 単純平均 (Simple Averaging)、加重平均 (Weighted Averaging)、スタッキング (Stacked Regressor)、ブレンディング (Blending)
  • 特徴: 複数のモデルの意見を統合します。単純な平均だけでなく、信頼できるモデルを重視したり(加重平均)、複数の予測結果をさらに別のAIで判断させる高度な手法(スタッキング)などがあります。
  • メリット: 特定のモデルの暴走(過学習)を防ぎ、ロバスト(安定的)な予測が得られやすいため、実務では「迷ったらこれ」として重宝されます。

4. 目的による使い分けの指針

残念ながら「万能なモデル」は存在しません。プロのデータサイエンティストは、以下のように目的によって最初に試すべき有力な候補のアタリをつけています。
  • 現象の理解・解釈を優先したい場合
    • おすすめ: 線形モデル
    • 理由: 単純明快で、化学的な常識と照らし合わせやすいため。
  • 予測精度の追求(データがある程度ある場合)
    • おすすめ: 決定木モデル
    • 理由: データが100件以上ある場合、複雑な相互作用を捉えて最も高い精度が出やすいため。
  • 極めて少ないデータでの予測
    • おすすめ: カーネル・確率モデル
    • 理由: データの類似度で補完するため、データが数十件レベルと少なくても、破綻せずに傾向を捉えやすいため。
  • 予測の安定性
    • おすすめ: アンサンブルモデル
    • 理由: 単一モデルの弱点を補い合い、大外しするリスクを減らして安定運用しやすいため。

5. まとめ:「プロの検証プロセス」を自動化する

ここまで様々な手法と選定の基準を紹介してきましたが、実際の開発現場でこれらを一つひとつ実装し、比較検証するのは大変な労力と専門知識を要するものです。
 
アルゴリズムの特性を理解していても、これらを毎回手動で網羅的に検証するのは、実務上大きな負担となってしまうのが実情ではないでしょうか。しかし、プロのデータサイエンティストであっても、最初から「今回はこれだ!」と1つに決め打ちすることは稀です。彼らは上記の指針を参考にしつつも、実際には複数のモデルを公平な条件で競わせ、そのデータに最も適したものを客観的な数値に基づいて選び抜いています。
 
私たちの提供する「材料開発DXプラットフォーム」では、このプロが行う網羅的な検証プロセスを自動化する機能を搭載しました。 適切な形式に整えたデータを用いて主要なアルゴリズムの学習・比較検証を行い、モデル選定にかかる膨大な試行錯誤のプロセスをシステムが肩代わりします。
 
モデルの選定やチューニングといったコンピュータが得意な作業はAIに任せ、研究者の皆様は、その結果から得られる知見の解釈や「次はどの実験をするか」という研究者ならではの創造的な考察に、ぜひ多くの時間を使ってください。
 
次回の記事では、探索アルゴリズムの解説に進む前に、作成した予測モデルが実務で使える精度を持っているかを見極めるための予測精度の評価指標(R2、RMSEなど)について解説します。 精度の悪いモデルで探索をしても、間違ったナビゲーションをされるだけです。正しい探索を行うためには、事前のモデル信頼性評価が不可欠です。
 
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Masahiro Fujita

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