【3行要約】
- 「3原則(項目名統一・1行1実験・数値と単位の分離)」を実践しても、解析ソフトへの転記で苦労するケースは多い。普段の書き方と求められるフォーマットのギャップが、別のところに潜んでいるからだ。
- 前回挙げた「解析の二度手間」「知見の活用漏れ」「システム連携コスト」の根本原因の一つは、Excelの「枠線」と「テーブル機能」の違いにある。
- Polymerizeでは、現場でよく使われる入力形式に対応した実験記録テンプレートを提供している。このテンプレートに沿って入力するだけで、MIプラットフォームへの変換は自動で完結する。
前回の記事([材料開発におけるExcelデータ管理:MI・AI活用につなげる実践的3つのポイント])では、日々の実験記録を「使いやすいデータ」として管理するための3つの基本ルールをお伝えしました。
「項目名を統一する」「1行1実験にする」「数値と単位を分ける」——これらを実践すれば、データの質は確実に上がります。ただ、多くの現場で共通して起きている苦労が、もう一つあります。
普段慣れ親しんだ入力形式と、解析ソフトやMIプラットフォームが求めるフォーマットのギャップです。転記が必要になる、整形に時間がかかる、「結局また手作業か」となる——3原則を守っていても、このギャップは別のところに潜んでいます。
1. 「枠線」と「テーブル機能」、何が違うのか
前回の記事で、属人化したデータが招く課題として3つを挙げました。グラフ作成や統計処理のたびに発生する「解析の二度手間」、単位や条件が不明確になる「知見の活用漏れ」、新しいツール導入時に数週間を費やす「システム連携コスト」です。
実は、これらに共通する根本原因の一つが、Excelで表を作るときの「枠線(罫線)」と「テーブル機能」の違いにあります。
多くの方が「枠線」を引いて表を整形します。見た目はきれいで、印刷映えもする。しかしこの方法で作った表は、あくまで「見た目が表らしい、セルの集合体」に過ぎません。セル結合が自由にできてしまうため、後から並べ替えや集計をしようとした瞬間に構造が崩れます。自動処理の仕組みも「どこからどこまでが1つの表か」を正確に認識できないため、システム連携のたびに手作業が発生します。
Excelの「テーブル機能」は、範囲を選択して「テーブルとして書式設定」するだけで使えます。見た目の変化は小さいですが、内部的には大きく異なります。
枠線で作った表:
- セル結合ができてしまう(並べ替えや自動処理で詰まる原因になる)
- 列の追加で構造が崩れやすい
- 自動処理の仕組みが表の範囲を正確に認識できない
テーブル機能で作った表:
- セル結合ができない(構造が守られる)
- 行・列を追加しても自動的に範囲が拡張される
- 自動処理の仕組みがテーブルを名前で参照できる
「セル結合ができない」は制約ではなく、保護機能です。前回挙げた3つの課題——二度手間、活用漏れ、連携コスト——はいずれも「後から構造を読み解く作業」が発生することで生じます。テーブル機能はその構造を最初から守ることで、これらを根本から防ぎます。

2. 書き方のギャップが、なぜ毎回コストになるのか
3原則を実践した上でテーブル機能を使えば、Excelの中のデータ構造はかなり整います。しかし、ここで別のギャップが顔を出します。
「整えたExcelの書き方」と「解析ソフトやMIプラットフォームが求めるフォーマット」が、一致しないという問題です。
材料開発の実験データには、現場によって書き方の「型」が異なります。よくある例を挙げると:
- 横持ち形式:行に変数(配合・条件・特性)、列に実験番号を並べる書き方
- 縦持ち形式:行に実験番号、列に変数を並べる書き方(Long形式)
- 複数シート形式:工程や試験項目ごとにシートを分けて管理する書き方
どの形式が正しいというわけではありません。プロジェクトの性質や、チームの慣習によって自然と定着した書き方があるはずです。しかし、解析ソフトやMIプラットフォームが求めるフォーマットは決まっています。この「ギャップを埋める作業」が、毎回の手作業のコストになります。
3. テンプレートが解決すること
Polymerizeでは、この変換コストをゼロに近づけるための実験記録テンプレートを提供しています。
テンプレートの設計思想は、一点に集約されます。
「現場でよく使われる入力形式のまま記録できて、出力はプラットフォームが読める形に自動で変換される」
具体的には、横持ち・縦持ち・複数シートといった複数の入力形式に対応した入力シートを用意しています。実験を担当する研究者は、自分たちの書き方に近い形式のシートに記録するだけです。
変換の設定はテンプレート内で管理しており、「何を出力するか(メタデータか実験結果か)」「どの形式に変換するか」を指定するだけで、Excelの自動処理機能が変換を行い、アップロード用のシートに出力します。研究者が変換の仕組みを意識する必要はありません。
研究者が意識するのは「正しいシートに、正しく入力すること」だけ。変換の手間は、仕組みが引き受けます。
4. 「入力するだけ」が、組織の資産になる
このテンプレートが解決するのは、変換の手間だけではありません。
テンプレートには、変数の定義や単位、特性のカテゴリ情報(メタデータ)を管理する仕組みも組み込まれています。実験ごとに発生しがちな「この単位、何だっけ?」「この変数、誰が定義したんだっけ?」という属人化を、構造的に防ぎます。
前回の記事でお伝えした「データの再利用性」は、このテンプレートを使うことで、日常の入力作業の中に自然と組み込まれます。研究者が意識しなくても、記録するたびにデータが整い、蓄積され、MIで使える形になっていく。
研究者が意識しなくても、記録するたびにデータが整い、活用できる形で蓄積されていく——これが、Polymerizeがテンプレートを通じて実現しようとしている状態です。
記録が自然と資産になる仕組みができてこそ、その先のデータ活用が意味を持ちます。MI導入の成否は、アルゴリズムよりも前の「データ構造」で決まることが少なくありません。Excelはその入口に過ぎませんが、入口を正しく設計できているかどうかが、その後の開発速度を大きく左右します。

まとめ
3原則の実践は、データ管理の重要な第一歩です。しかしそれだけでは、普段の書き方と解析ソフト・MIプラットフォームが求めるフォーマットのギャップは埋まりません。
その橋渡しをするのが「テーブル機能を使った器の設計」と「変換を仕組み化したテンプレート」です。
整える手間を、日常業務に溶け込ませること。それが、研究者の負担を増やさずにデータ活用を進める、現実的な一歩だと私たちは考えています。
Polymerizeでは、実験記録テンプレートの提供から、自社データに合わせたカスタマイズのサポートまでを行っています。「自社の書き方に合うか確認したい」という段階でも構いません。まずはお気軽にご相談ください。
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